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飼育員の日記帳

化茂岸水族館の閉館当日、昼間なのに奇妙なほど静寂に包まれた街に光が降った。流星のように眩く、シャワーのような細長く青白い光。窓から見えたその光に俺は妙に惹き付けられた。作りかけのカップ麺を放置して、アパートの階段を駆け下りた。光が降り注ぐ方とは反対へ走る。道行く人は空の光など全く気にしていなかった。というか、見えていないようだった。
自分の目を擦る。光は消えない。頬をつねる。夢では無い。
そのとき突如、子供の甲高い悲鳴のような音が聴こえ、咄嗟に耳を塞いだ。
鐘のようにも思えるその音は、耳を塞いでも音は指の隙間から入り込んでくる。
頭痛がするほど酷い音。だが、この音も周りの人々には聞こえないようで、耳を塞ぐ俺を奇怪な目で見てくるばかりだった。俺はまた走り出す。走っている途中、道路の脇の草花に光が落ちた。目の前、後ろ、電線にとまった小鳥にも落ちた。そのどれも、光が当たったところは氷のように透明に硬化して、砕けた。パキン、パキン。しかしそれも人々は気がついていないようだ。走り出して10分。見えてきた。今日で閉館する、化茂岸水族館。どうしてここに来たのだろうか。肩で息をしながら後ろを振り返る。光は街へ、無数に降り注いでいた。弾けた光と共にパキパキと街が割れていく。
「……きれいだ」
この世界は終わるのだろうか。ハッとして館内へ足を踏み入れようとしたその瞬間、一際大きく高くあの不快な音が響き、目の前が光に包まれていった。
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